どろらい?

小説とか絵とかを創ってる同人サークル『DrawingWriting』の小説担当が、目についた映画とか小説とか漫画とかアニメとかその他諸々な文化的生活に重要な娯楽について語る無駄グチブログです。

【機動戦士ガンダム 水星の魔女】 令和たぬき合戦ガンダム

 

オルフェンズももうちょっと生き残って欲しかったなぁ

 

勘違いするなよ、俺はたぬきのことなんて全然好きじゃないんだからな

 

遅ればせながら「水星の魔女」を全話観終わった。

 

とても面白かった、と思う。

 

1stシーズン、これでもかと積み上げられていく謎。

 

2ndシーズン、怒濤の勢いで明かされる数々の真実。

 

多くの人々と関わり、人間として成長していく主人公・スレッタとミオリネ。

 

最終話において虹色の輝きと共に鳴り響く名曲『The Witch From Mercury』。

 

そして笑顔の大団円。EDテーマとしてこれ以上なく相応しい yoasobi の『祝福』。

 

美しい。

 

実に美しい最終回だ。やはりハッピーエンドは素晴らしい。「ああ良かった」と思わせてくれる。本当に美しい最終回だった。

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

 

 

 

でも何か、もやもやした。

 

 

データストームのその先で、たぬきたちを待っている

 

いったいなぜ、どうして僕はホワイもやもやしているんだろう。最終話の後、僕は自問自答した。だが答えは見つからない。

 

ハッキリ言って僕は頭が悪い。登場人物の気持ちや話の流れ、包含されているテーマなどが汲み取れないことは日常茶飯事だ。

 

「出たな……! 地頭の悪さ……!」

 

僕はそんな感じで呟いた気がする。いや流石にそれは嘘だ。少々話を盛った。

 

それはそれとして、ただウンウン唸っていても時間は無為に過ぎていくだけだ。埒が明かない。そう考えた僕は真相を突き止めるべく、アマゾンの奥地に向かいはしなかった。代わりに布団の中でガタガタ震えながら考え続けた。何が僕をもやもやさせているのか。三日三晩考え続けた。

 

いや、うん。三日三晩も嘘だ。また話を盛った。精々二日くらいだ。

 

結果として、幾つか「これかなぁ」という答えに辿り着いたように思う。

 

それは大別して三つ存在したのだ。

 

 

スレッタ、忘れられっタ

 

一つ目は、この物語が割と駆け足気味だったことだ。より明確に言うと、駆け足気味であったが故に、イマイチ汲み取れないところが幾つかあった。

 

ざっと挙げてみよう。

 

  • 21話におけるグエルとシャディクの戦い。シャディクはここでグエルに対し「ミオリネを穢したなこの野郎」と激しく激昂する。が、そもそもミオリネが降り立った地上に兵器を隠していたのは他ならぬシャディクの息のかかった組織であり、それを棚に上げてグエルを責めるのはお門違いではないか?
  • 同じく21話、プロスペラの暗躍によって戦火に包まれた街を見たミオリネ。彼女は自分の選択が街を戦場に変えてしまったことに愕然とし、その後23話までTV版最終話近くの碇シンジくんが如く塞ぎ込む。しかし、ミオリネってこんなに自責的なキャラクターだったっけ? もっと「何でこんなことになっとんねん」と怒り散らすイメージがあるんだけど違ったか?
  • 23話、シュバルゼッテでミオリネを狙おうとするラウダ。自分たち家族に災厄を招いた者としてミオリネを殺害しようとする彼だが、そもそも「ミオリネが全部悪いんじゃい」というのは飛躍が過ぎないか?
  • データストーム空間てなんやねん

 

概ねこんなところだろうか。しかし落ち着いて考えてみると、これらは劇中で描写・説明されているものが殆どだ。

 

シャディクは「グエルなら何とかやるだろう」という期待を裏切られた上に「自分ならうまくやれた」という自負があったが故に激昂したのだろう。怒りとは大抵、事実と理想のギャップから生まれるものだ。

 

ミオリネが地球に降り立ったのは総裁選で勝つこともそうだが、「戦火を失くそう」という気持ちも間違いなく存在していた。それが結果としてそれは真逆の事態になったわけだし、この時点で彼女はプロスペラの暗躍のことなど知りようが無いし、ただ自らが失敗するだけではなく多くの人命が失われたという事実は、成長し始めた彼女にとってさぞかし厳しい現実だったことだろう。言うても十代である。塞ぎ込むのも無理はあるまい。

 

ラウダは元々「落ちろ水星女ァ!」と兄を失墜させたスレッタにブチ切れてセセリアにドン引きされるくらいには激情家だ。データストーム空間についても15話冒頭でプロスペラが「データストームは超密度情報体系を発現できる性質を持つ♣」と明言している。要は機械を通さず知覚できるAR空間みたいなものなのだろう。

 

何が言いたいかと言うと、「見せるべきものは劇中で見せてくれていた」ということだ。僕はそれらを汲み取れなかった。そのままで最終話を鑑賞したのが僕の敗因と言える。

 

では次。

 

 

このダブスタキャリバーン

 

二つ目は、スレッタがエリクトを倒せなかったことだ。

 

最終決戦の見どころとして、エアリアルVSキャリバーンを挙げる者は数多い筈だ。片や序盤から最強であり続けた主人公機、片や人命無視の化け物機。このドリームマッチに燃えない漢はそうそうおるまい。

 

が、結果としてスレッタはエリクトを倒せない。話し合いで終えられなかった二人の対決は、ミオリネたちを巻き込もうとしたエリクト、そのエリクトを止めるクワイエット・ゼロ(ノートレットかエラン4号の意思によるものか?)、そして最後にはソーラ・レイのようなサムシングによるエアリアルの事実上の撃墜と、様々な要素の介入により終了となる。

 

そもそも、スレッタの勝利条件自体が特殊ではあった。彼女が果たすべきことはエアリアルの無力化ではなく『プロスペラとエリクトの説得』なのだ。おまけにエリクト=エアリアルであり、エアリアルを壊すことはエリクトの殺害に直結する。故に、スレッタはエリクトに呼び掛けることしか出来ない。

 

エリクトはエリクトでプロスペラと共に行く覚悟を完了している。スレッタの説得に応じる気など全くない。

 

こうして最終戦は水掛け論へ移行する。

 

他のガンダムシリーズでも、例えばキラ・ヤマトキオ・アスノのように不殺の信念で戦おうとしたものは居る。ただ、彼らには敵機体の破壊という手段があった。スレッタにはそのような手段すら選べない。それは姉に、家族に手を上げるのと同義であるから。

 

勿論、スレッタが「この分からず屋め! 前歯全部折ってやる!」と渚カヲルに煽られたコミック版碇シンジくんのような猛獣性を露わにしたら話は違っただろう。が、それは最早スレッタではない。

 

物語の特性上、こればっかりはどうしようも無い。そもそもこの物語は『立ちはだかる敵を倒す』というものではないのだから。

 

……。

 

……という想いと共に、僕は胸のもやもやに決着をつけかけていた。つけかけていたのだが、その後に改めて最終戦を見直してみると、これもどうやら僕の勘違いというか、解釈が浅かったのではないかという気持ちになってきた。

 

何故かというと、エリクトは最終的にきちんと倒されているからだ。但し、それは物理的なものではないし、スレッタ一人で成し遂げたものでも無い。

 

エアリアルの猛攻を耐えきったスレッタと、母の力を借りてクワイエット・ゼロを止めたミオリネ。この二人の主人公が居たからこそ戦いは止まったし、エリクトの心境を変化させることができた。

 

そもそも(自分で書いておいてなんだが)エリクトがスレッタに協力してくれた時点で、スレッタの勝利条件の半分は満たされている。もう半分、プロスペラの説得についても、スレッタはデータストーム空間を創り上げることで成し遂げた。

 

戦いは決して物理的なものだけではない。むしろ創作物における戦いの本質は逆の位置にある。自分を貫き、相手を飲み込むという困難な戦いをスレッタは成し遂げた。これが『倒す』でなくて何なのか。

 

自らの唯物論的思考を改めねば。そんなことを『The Witch From Mercury』を聴きながら思った。

 

では次。

 

 

逃げたら一つ、進めばたぬき

 

3つ目は、罪の着地点が若干ボカされていたことだ。要は贖罪に関する話だ。

 

クワイエット・ゼロによる混乱。その罪は何処にあるのだろう?

 

冒頭にも書いた通り、この物語は『主要人物が軒並み笑顔』という美しい結末を迎える。それ自体は良いのだが、クワイエット・ゼロに関する罪もシャディクが背負う、というのは……ちょっと納得が行かない。

 

無論、贖罪とは判決を経て刑を受けることのみを指すものではないとは思う。実際、最終話にてシャディクとミオリネは「お互い償う身は大変だな」みたいな会話をする。例え法の審判を受けずとも、ミオリネは自分の選択によって失われた命を背負って生きていこうとしているわけだ。それは間違いなく贖罪と言っていい。

 

また、劇中では「失敗しても前に進むしかないんだ」という前傾姿勢が、数多くの登場人物から語られる。これは水星の魔女におけるテーマの一つなのだろう。とても前向きで力強く、勇気の出る言葉だ。そこに水を差すつもりは毛頭ない。

 

が、それらを加味しても尚、最終話の最終カットで安穏としているプロスペラの姿には違和感を覚えた。

 

戦争犯罪、というと物凄く複雑な話になるし、ぶっちゃけ僕はその辺の話は全然分からないのだが、プロスペラの着地点はアレで良かったのだろうか? 彼女の表情は穏やかであり、罪を償っているようには見えず、むしろ前線から退いて静かに余生を過ごしているように見えた。

 

それでいいのか?

 

本当に?

 

……うーん……。

 

 

 

 

 

……少し気になって計算してみた。クワイエット・ゼロがもたらした混乱――というか人的損害について。

 

クワイエット・ゼロによる蹂躙が描かれるシーンは22話と23話が挙げられる。NETFLIXの力を用いて目視確認してみたところ、宇宙議会連合は戦艦3機で1つの編隊を組んでいるようだ。これに則って考えると、少なくとも22話では5つ、23話では8つの編隊が登場し、クワイエット・ゼロに為す術無くやられている。

 

厳密に言うと各編隊は1機の大型艦と2機の中型艦(それとも1機の中型艦と2機の小型艦か?)で構成されているようなのだが、ここでは単純に22話と23話では計13編隊、総数39機の宇宙戦艦が大破或いは轟沈したと仮定する。39機。2022年時点での日本海自衛隊における護衛艦数が54隻であることと比較すると、結構な数であるように思う。

 

当然ながら現代の護衛艦とSF世界の宇宙戦艦とを単純比較することは出来ない。が、どうせこの記事を読む者など然程居まいという前提でガバガバ計算を進める。

 

イージス艦を例にしてみよう。Wikipediaによると、あたご型護衛艦の乗組員数は約300名、ホバート駆逐艦は約200名、コンステレーション級ミサイルフリゲートは約200名だそうだ。いや、モビルスーツを格納する母艦という意味合いだと、ヘリコプター搭載護衛艦強襲揚陸艦を例にした方がいいのか? 前者の例としては日本のいずも型護衛艦(乗組員数約470名)、後者の例としてはアメリカのアメリカ級強襲揚陸艦(乗組員数約1050名+上陸部隊約1850名)などがあり、用途やお国柄によって乗組員数には大きな差がある。が、先ほども述べた通りここはガバガバ計算で行く。そもそも誰にでも修正できるWikipediaを情報ソースとして扱っている以上、どこまでいってもガバガバだ。

 

上述の例に挙げた5つの軍艦(これ単純に軍艦って括っていいのかな、それすらも分からん)の総乗組員数が大体3,000名だから、平均を取って1艦600名とする。となると600名の乗る艦が39機やられたわけで、人的被害はおよそ23,400名だ。令和2年国勢調査によると秋田県にかほ市の人口が23,435名なので、少なく見積もってもクワイエット・ゼロによって秋田県にかほ市を丸ごと葬り去るくらいの被害が出ている。

 

繰り返そう。

 

プロスペラの贖罪は有耶無耶にしていいのか?

 

 

 

 

……まぁプロスペラ自身が歴史の被害者でもあるわけだし、そうそう単純な話では無いのは重々分かっているのだけれど、やはりこう、なんかもやっとする。もやもやをとめられない。

 

他の疑問点については自分の中で納得できたのだが、これについては未だに自分の中で疑念を払拭できない。どうなのかな。いいのかな。

 

……よくは、ないんじゃないかな。

 

 

たぬきのアドバイスは尊重して欲しいなぁ

 

というわけで、ここでは水星の魔女を観終わった僕の率直な意見を記述してみた。細かなところで言うと他にも「戦争シェアリングってなんだっけ」とか(注:公式サイトで明確に説明されている)、「パーメットってなんやっけ」とか(注:公式サイトで明確に定義されている)、「何でエラン4号は最後に出て来てくれたの」とか(注:パーメットとデータストーム空間の両方を踏まえて考えれば別におかしな話ではない)、「そもそもロウジくんは何でトマトのゲノム調べようと思ったの」とか(注:THE ビッグオーのファンだったのかもしれない)、細々したところで疑問が頭をよぎっていたが、まぁ大体のことは改めて考えなおしたり調べてみたりしたら納得できた。だから、よく分からなくても何度か繰り返して観れば理解できるお話なのだろうと思う。

 

実際、あれだけSNSでバズりまくれたのは間違いなく水星の魔女という作品の力によるものだろう。リアルタイムで観てたらお祭り状態で毎週楽しかっただろうな、と思う。その点はちょっと残念だ。僕が観終わったのはTV放送が終了して3週間ほど経た頃なのだから。

 

結局のところ、こうして色々内容について改めて考えたり、確認しようとして何度も本編を見返したりするのも楽しいものだ。そういうところも全部ひっくるめて、水星の魔女は傑作だった。

 

スリリングで濃密な時間をありがとう。そんな言葉を、世界の片隅からそっと製作スタッフに送って、この記事を終える。

 

……。

 

でもプロスペラはやっぱ……いややめよう。もうこの話はやめやめ! はい!!

 

 

以上、

 

機動戦士ガンダム 水星の魔女】 令和たぬき合戦ガンダム

 

の項を終わろうと思う。ここまで読んでいただき有難うございました。